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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)159号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願発明の要旨)、同三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

1 成立に争いのない甲第二、第三号証及び乙第一号証によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(一) 本願発明は、並列して設けられた多数の加工ヘツドを有する加工機のテーブル駆動方式に関する(本願公報第一欄第一四行、第一五行)。

多軸ヘツドを有する加工機では、構造の簡素化及び加工精度の上から、加工ヘツドを固定し、テーブルをXY方向に移動制御する方式が好ましく、この場合、加工ヘツドの取付位置はX方向(テーブルの長手送り方向)には定ピツチであり、Y方向(テーブルの横送り方向)には一定位置とし、加工ヘツドを一列に並べて配置するのが一般であるが、不可避的に発生する加工ヘツドの取付位置誤差を生じないようにするには大変手間と時間とを要し、しかもこの取付位置の誤差は各個の加工機毎に異なつたものとなる(同第二欄第六行ないし第一八行)。本願発明は、右知見に基づき、右のテーブルのみを移動制御する方式において、加工ヘツドの取付位置の誤差があつても、プログラムの作成を容易にし、しかも別個の加工機へデータを容易に適用させることができる制御方式の提供を技術的課題(目的)とするものである(同第二欄第一九行ないし第三欄第一行)。

(二) 本願発明は、前記技術的課題を達成するために、本願発明の要旨(特許請求の範囲)記載の構成(同第一欄第二行ないし第一二行)を採用した。

(三) 本願発明は、前記構成を採用した結果、「プログラム時に演算の上データを作成する必要はなくデータには加工位置座標データ及びヘツド位置の指令データのみを単純に組込めばよいのでデータの作成が容易であり、又一つの被加工物に関しては一種のデータを作製しておけば、加工機が異なつてもそのデータで加工を行うことができ、作業が簡単となる。」(同第五欄第七行ないし第一三行)という作用効果を奏する。

2 一方、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例記載の発明は、例えば工作機械等に対する数値制御方式の改良に関し(第五頁左下欄第一四行、第一五行)、従来の数値制御では、加工すべき部品の形状がほぼ同じであつても、一部の寸法が異なるとその都度指令テープを作り直さねばならず、指令テープの作成に時間がかかり、経済的でなく、またダイレクトNC、コンピユータNC等において、指令テープ情報を磁気ドラム等の記憶手段に記憶させる場合、大きな記憶容量を要する等の欠陥を生じたとの知見に基づきこれを解決することを目的とし(同頁左下欄第一六行ないし右下欄第七行)、審決の理由の要点2ア摘示の特許請求の範囲(同頁左下欄第四行ないし第一二行)記載の構成を採用したこと、引用例には、右方式について審決の理由の要点2ウ及びエ摘示の技術内容(第六頁左上欄第五行ないし第一五行、同頁左下欄第五行ないし第一九行)が記載されていること、引用例記載の発明は右構成により「加工形状がほぼ同じで一部の寸法が異なるような場合基本形状を規定した指令データを一つだけ用意しておきあとは変数のみを指定することでたりるので指令データの作成が容易で指令テープの削減、記憶容量の削減が達成される。」(第七頁左下欄第九行ないし第一四行)という作用効果を奏することが認められる。

3 原告は、本願発明と引用例記載の発明とは、「数値制御方式において、複数個の数値データのうちの少なくとも一個が変数として表現された複数の数値データを記憶する第一の記憶手段と、(中略)加工に際し第一の記憶手段からの該変数の出力信号により実際値を呼び出し該変数を実際値に置換する選択的置換手段からなり、これらの数値データの出力により加工機を制御する数値制御方式」である点において一致するとした審決の認定は誤りである旨主張する。

(一) そこで、まず、本願発明と引用例記載の発明とは、「数値制御方式において、複数個の数値データのうちの少なくとも一個が変数として表現された複数の数値データを記憶する第一の記憶手段」を有する点において一致するとした審決の認定について検討すると、被告は、右の第一の記憶手段とは、引用例記載の発明においては「指令テープ一ブロツク分の内容を記憶保持する、読取回路RE中に設けられた何らかの記憶手段(別紙図面二第3図の場合)、もしくは指令テープの全内容を記憶保持する指令データ記憶手段DM(同第4図の場合)」を指し、本願発明においては「加工位置座標値メモリー及びヘツド位置指令メモリー」を指し、「第一の記憶手段に関し、その記憶方式を含め、両者の間に実質的な相違はない」と釈明し、原告は、右は両者の技術内容の誤認に基づくもので誤りである旨主張する。

前掲甲第四号証によれば、引用例には第3図の動作について、「指令テープPTはテープリーダTR、読取回路REにより一ブロツク単位で読取られるが、一アドレスごと、すなわちアルフアベツトとそれにひきつづく数値の単位ごとにバツフアレジスタBUに転送される。」(第六頁右下欄第九行ないし第一三行)と記載されているから、読取回路REは指令テープ一ブロツク単位で読み取るが、バツフアレジスタBUに転送されるのは、その内の一アドレス毎、すなわちアルフアベツトとそれに引き続く(14)値の単位毎になされるものと認められる。さらに、その後の動作について、前掲甲第四号証によれば、引用例には、「バツフアレジスタBUは解読機能をもちアルフアベツトに応じてアドレス信号RESを発生するとともに、通常データのときは通常データ信号NNを発生して数値データを(中略)所定のレジスタに転送する。変数記号♯を解読すると変数信号VNが送出され、かつ変数記号♯の後につづく変数コードに応じた変数コード信号VRがゲート2に送られる。(中略)♯1がバツフアレジスタBUに読込まれると変数コード信号VRは変数コード1に対応する信号をゲートG2に送出し、従つて加工(1)の♯1に対応して記憶要素S11に記憶されていた数値(中略)が(中略)所定のレジスタ(中略)に設定される。」(同頁右下欄第一三行ないし第七頁左上欄第一一行)、「変数部分が実際値で置換され、かつ一ブロツクのデータがレジスタ群RGに設定されると(中略)パルス分配が行なわれ、(中略)一ブロツクのパルス分配が終了すると次のブロツクのデータ読取が開始される。」(同頁左上欄第一一行ないし第一七行)と記載されているから、バツフアレジスタBUは、読取回路から転送されるアドレス毎の個々のデータを処理し、通常のデータの場合はそれを後段のレジスタ群の所定のレジスタに直接送るものの、データが変数の場合はそれを実際値に置換して、後段のレジスタ群の所定のレジスタに送り込むための処理をしているものであることが認められる。

右認定事実によれば、引用例記載の発明においては、バツフアレジスタBUの処理が終了するまで、読取回路REからのデータは転送されることがないから、読取回路中には、バツフアレジスタBUに転送されるまで読み取つたデータを記憶する何らかの記憶手段がなければならない。そして、この何らかの記憶手段に記憶されるのは、前記「指令テープPTは(中略)読取回路REにより一ブロツク単位で読取られる」との記載からみて、少なくとも指令テープに記録された一ブロツク分のデータであり、このデータは、実際の数値データと記号♯の付された変数として表現された数値データからなることが明らかである。

したがつて、引用例記載の発明において、別紙図面二第3図の場合「数値制御方式において、複数個の数値データのうち少なくとも一個が変数として表現された複数の数値データを記憶する第一の記憶手段」は、「指令テープ一ブロツク分の内容を記憶保持する、読取回路RE中に設けられた何らかの記憶手段」を指すものというべきである。

この点について、原告は、引用例には、確かに「指令テープPTが読取回路REにより一ブロツク単位で読取られる」旨記載されているが、一ブロツクを連続して読み取り記憶するとは何ら記載されていないから、「何らかの記憶手段」が読取回路中に存在すると考えることは不自然であり、また、引用例の右記載は、「指令テープPTはテープリーダTR、読取回路REにより一ブロツク単位で読取られるが、(実際には)一アドレスごと、すなわちアルフアベツトとそれにひきつづく数値の単位ごとに(読取られて)バツフアレジスタBUに転送され(一ブロツク単位になるまで繰り返して読取られ)る。」と解釈すべきである旨主張する。

しかしながら、当業者が右記載をみた場合、読み取られるのは一ブロツク単位であり、後段に転送されるのは、その内のデータ単位であることを第一に考慮すると理解するのが相当であり、そしてテープに記録されたデータを読み取る場合そこに何らかの記憶手段を設けるのが普通であることを勘案すれば、右記載は、読取りは一ブロツク分連続して行い、これを読取回路中の何らかの記憶手段に記憶した後、後段のバツフアレジスタの処理に合わせて各データ毎に転送されると解するのが自然であり、原告主張のように解することは適切でなく、またそのように解すべき合理的根拠もない。後段のバツフアレジスタBUは、一ブロツク単位で前記認定の処理を行つており、その処理の間、読取回路中に何らかの記憶手段を設け、読み取つたデータを記憶することは技術的に有意義であり、通常はそのようにするものと理解される。したがつて、原告の前記主張は理由がない。

また、前掲甲第四号証によれば、その第4図は、ストアドプログラム形のコンピユータを使用した実施例(第七頁右上欄第五行ないし第八行)を示すものであるが、引用例には、右実施例について、「変数データを含む指令テープPTの数値情報はテープリーダTR1を介して磁気ドラム等の指令データ記憶装置に記憶されており、一方変数値記憶装置VSには(中略)各変数に対する実際値が各加工番号に対応して記憶されている。」(同頁右上欄第九行ないし第一五行)と記載されているから、引用例には、第4図の数値制御方式が一連の加工に関する変数データを含むすべてのデータをデータリーダを介して磁気ドラム等の指令データ記憶装置に転送記憶し、中央処理装置CPUの制御に基づき適宜読み出し、読み出されたデータが変数であれば、それを実際値に置換して後段の制御装置に送り込むものであることが示されており、引用例の別紙図面二第4図の場合、指令テープの全内容を記憶保持する指令データ記憶手段が審決認定の前記第一の記憶手段に相当するというべきである。

一方、前掲乙第一号証によれば、本願明細書の特許請求の範囲には、「テーブル移動指令としての(中略)ヘツド位置指令」と記載され、また、発明の詳細な説明には、「加工プログラムとして与えられ、テーブルを所定の位置に移動させるための移動指令データ6は(中略)ヘツド位置指令とを含んでおり」(本願公報第四欄第七行ないし第一〇行)、「ヘツド位置指令はヘツド位置指令セレクター15を経て所定のヘツド位置座標値メモリーをアクセスし、ヘツド位置座標値が呼び出される(中略)所要のテーブル移動データ17が得られる。」(同欄第二五行ないし第三三行)と記載され、ヘツド位置指令がヘツド位置座標値を呼び出すことについては記載されているがそれ以外のヘツド位置指令の働きやヘツドを選択するための構成等についての記載は存しないことが認められるから、本願発明のヘツド位置指令は、その指令に基づいて該当する座標位置を呼び出す機能のみを持つ信号であり、引用例記載の発明における変数で表現された数値データに相当するというべきである。

そして、前掲乙第一号証によれば、本願発明の加工位置座標値メモリーとヘツド位置指令メモリーについては、本願明細書に「組立加工に際してはシーケンスナンバー順に行われ、シーケンスナンバーはシーケンスカウンタ14に送られて之を駆動し、その出力により加工位置座標値メモリー9とヘツド位置指令メモリー10より夫々のデータ、即ちテーブル3上の原点0´を基準とした加工位置のデータと使用する加工ヘツドとを呼び出す。」(本願公報第四欄第一八行ないし第二五行)と記載されていることが認められるから、加工位置座標値メモリーとヘツド位置指令メモリーには、変数として表現されるデータを含む複数の被加工物の加工に関するデータが記憶され、これらが加工に際して用いられることは明かである。

したがつて、本願発明の加工位置座標値メモリーとヘツド位置指令メモリーは、審決認定の前記第一の記憶手段に相当するというべきである。

この点について、原告は、引用例記載の発明における指令データ記憶装置は、指令テープPTに代わる中央処理装置CPU内に設けられたバツフアレジスタBUへの単なる入力手段であり、本願発明に係る「加工位置座標値メモリー」又は「ヘツド位置指令メモリー」とは基本的機能が相違する旨主張する。

しかしながら、引用例には、前記認定のとおり、「指令テープPTの数値情報はテープリーダTR/を介して磁気ドラム等の指令データ記憶装置に記憶されており」と記載されているように、引用例記載の発明には、入力手段としての指令テープとテープリーダTR/が存在し、指令データ記憶装置DMが指令テープに記録された変数を含む複数の数値データを記憶するものである以上、指令データ記憶装置DMがレジスタでないということはできず、また、中央処理装置CRUへの単なる入力手段ということもできない。指令データ記憶装置DMは、第一の記憶手段に相当し、本願発明の加工位置座標値メモリー及びヘツド位置指令メモリーの機能と同等のものというべきであるから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、ヘツドを選択するための具体的構成は周知であるから、ヘツド位置座標値を呼び出す以外のヘツド位置指令の働きやヘツドを選択するための構成等についての記載がなくとも、ヘツド位置指令はヘツドを選択するための指令であつて、単なる変数としての機能しかないものではない旨主張する。

しかしながら、本願発明の前記特許請求の範囲の記載によれば、本願発明の「ヘツド位置指令」は、ヘツドの選択を要旨とするものでなく、テーブル移動指令データとしての位置付けでヘツド位置座標値を呼び出すためのものでしかないから、ヘツドを選択する具体的構成が周知か否かに関係なく、ヘツド位置指令は単なる変数として表現された数値データの機能を奏するものとしてしか把握できず、原告の右主張は理由がない。

したがつて、本願発明と引用例記載の発明とは、「数値制御方式において、複数個の数値データのうちの少なくとも一個が変数として表現された複数の数値データを記憶する第一の記憶手段」を有する点において一致するとした審決の認定に誤りはない。

(二) 次に、本願発明と引用例記載の発明とは、「加工に際し第一の記憶手段からの該変数の出力信号により実際値を呼び出し該変数を実際値に置換する選択的置換手段」を有する点において一致するとした審決の認定について検討すると、被告は、審決のいう選択的置換手段について、引用例記載の発明における選択的置換手段は、バツフアレジスタBUを含むゲート回路群を指し、本願発明の選択装置に相当する旨釈明し、原告は、両者はその構成を異にする旨主張する。

前掲甲第四号証によれば、引用例記載の発明におけるバツフアレジスタBUは、読取回路RE中の何らかの記憶手段に記憶された一ブロツク分のデータをアドレス毎の各単位データ毎に分解転送させ、それを解読し、通常データのときは、そのまま後段のレジスタ群に転送し、変数信号を解読すると、変数信号VN、変数コード信号VRを送出し、ゲートG2~G5、A1、R2~R4の動作により、変数コードに応じた実際値を選択置換して後段のレジスタ群に転送するものと認められるから、審決認定の選択的置換手段は、引用例記載の発明においては、「バツフアレジスタBUを含むゲート回路群(G2~G5、A1、R2~R4)」を指すということができる。

一方、前掲乙第一号証によれば、本願明細書の特許請求の範囲には、「ヘツド位置指令メモリーの出力信号によりヘツド位置座標値を呼び出す選択装置」と記載され、この点について、発明の詳細な説明には、テーブルを所定の位置に移動させるための移動指令データとしての加工位置座標値データとヘツド位置指令は、加工プログラムから加工位置座標値メモリー及びヘツド位置指令メモリーにそれぞれ送られて記憶され、変数でない被加工位置座標値データは、後段の演算システム16に送られるとともに、変数であるヘツド位置指令は、ヘツド位置指令の内容に応じた実際値が呼び出され、後段の演算システムに転送されるものである(本願公報第四欄第七行ないし第三五行)旨記載されていることが認められるから、テーブル移動指令データとしてのヘツド位置指令は、ヘツド位置セレクタを介して実際のヘツド位置座標値、すなわち実際値に置換されて後段の演算システムに送られるものというべきである。

したがつて、本願発明の選択装置は、「加工に際し第一の記憶手段からの該変数の出力信号により実際値を呼び出し該変数を実際値に置換する選択的置換手段」であつて、引用例記載の発明における前記バツフアレジスタBUを含むゲート回路群と実質上差異がないから、この点において両者の構成が一致するとした審決の認定に誤りはない。

4 原告は、本願発明と引用例記載の発明との相違点アないしエについての審決の認定、判断は誤りである旨主張するので、この点について順次検討する。

(一) 相違点アについて

本願発明のヘツド位置指令は、テーブル移動量を算出するデータを得るための単なる変数として表現された数値としか把握できないことは、前記3(一)認定の事実から明らかであり、この点では引用例記載の発明における数値データと異ならない。

一方、引用例記載の発明の数値制御における加工量とは、加工される被加工物と工具の間の相対的な移動量にほかならないものであり、このような移動量を工具の移動によつて得るか、あるいは被加工物を固定したテーブルの移動によつて得るかは、装置の形状や機能、加工物の態様に応じて、当業者が適宜選択すべき事項といえるから、本願発明において数値データをテーブルの移動量に対応するものとした点に格別な意義を見いだすことはできない。

原告は、審決の相違点アについての判断は、<1>引用例記載の発明における第一の記憶手段が本願発明の加工位置座標値メモリー及びヘツド位置指令メモリーに対応するとの誤つた認識に基づいてなされたものであり、また、<2>本願発明は、ヘツド位置指令と、右指令によつて選択されたヘツドに対応するヘツド位置座標値と、テーブルの原点を基準とする加工位置座標値との三種類のデータから、多軸ヘツド加工機において、テーブル上の加工位置をヘツドの位置に一致させるようにテーブルの移動量を算出して、テーブルを移動させる技術であるのに、誤つてこれを引用例記載の発明の単なる数値データと同一レベルのものと扱つた旨主張する。

しかしながら、<1>の点において審決の認定に誤りがないこと、<2>の点について本願発明のヘツド位置指令がテーブル移動量を算出するデータを得ること以外の機能を期待されていないことは、前記3(一)認定のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

したがつて、「引用例のような数値制御における加工量とは加工(例えば切削)される被加工物と工具の間の相対的な移動量にほかならないものであり、このような移動量を被加工物を固定したテーブルの移動によつて得るか又は工具の移動によつて得るかは、装置の形状や機能、加工の態様に応じて適宜選択決定されるものであるから、本願発明において数値データをテーブルの移動量に対応したものとすることに格別の意義を認めることはできない。」とした審決の認定、判断に誤りはない。

また、成立に争いのない甲第五号証によれば、周知例には、数値制御のプログラム用語「工具機能Tdd」について、「T機能ともいい、工具を指定するときに用いるもので、工具機能表示、工具選択、工具位置補正の三つの機能がある(図9.21)。工具位置補正は工具オフセツト量、すなわち工具の最終的な位置決めの補正量をあらかじめ手動ダイヤルに設定しておき、そのダイヤル番号をT機能で指定して、設定量をNC装置の出力値に加えて―原点をずらして―工具を正しい位置に持つてゆく場合などに使われる。この機能を備えておくと、同じ品物を連続して多数切削する場合、テープはそのままで工具の摩耗による寸法のずれを修正することができる。また、高精度の寸法出しをしたいとき、まず工具の取付けを0.02~0.04mmくらいの精度で固定し、最終的には補正ダイヤルで補正すればよい。」(第二一八頁第二行ないし第一四行)と記載されていることが認められるから、周知例には、数値制御において、使用する実際値に対応する工具の番号等を変数として用いて該番号に対応した実際値を呼び出すことが開示されているということができる。

一方、本願発明における位置指令は、前述のとおり変数として表現された数値データであつて、それによつてヘツドの位置座標を呼び出すものであるから、周知例に開示された右事項に対応することが明らかである。

そして、前掲乙第一号証によれば、本願明細書には、本願発明において位置指令とは、加工ヘツドHnの実際位置座標データXn、Ynの代わりに用いられるものであり、Xn=XHn+ΔXn、Yn=YHn+ΔYn(ここでXHn、YHnは加工ヘツドの取付基準位置、ΔXn、ΔYnは取付位置の誤差)で示され(本願公報第三欄第一四行ないし第四欄第五行)、右誤差は加工ヘツド毎又は同じ番号の加工ヘツドであつても加工機毎に異なるから、これらの誤差を含む実際の取付位置データをプログラムに含めないようにすることが本願発明の目的であると認められる。

これに対し、周知例の前記「この機能を備えておくと、同じ品物を連続して多数切削する場合、テープはそのままで工具の摩耗による寸法のずれを修正することができる」との記載事項からみて、周知例記載の技術も工具の取付誤差を含むデータを実際の値としてプログラムに含ませないようにすることを目的としていることが明らかであり、両者はその目的を共通にしている。しかも、周知例に示された事項は、一般的な技術文献の記載事項であり、本件出願前周知慣用の技術ということができるから、このことを考慮すれば、本願発明と引用例記載の発明との間の相違点アに係る構成上の差異は、実質的な差異とはいえない。

この点について、原告は、旋盤・マシニングセンタ等の数値制御装置において、本件出願前工具位置の補正が周知であつたことは認めるが、これが数値制御の技術全般(特に自動組立機の技術分野)において周知となつていたことはなく、まして、工具位置の補正ばかりでなく、選択された工具の取付位置の座標値を位置データとして補正の対象とすることが周知になつていたとは考えられない旨主張する。

しかしながら、前掲甲第五号証によれば、周知例には、数値制御装置の種類を旋盤・マシニングセンタ等に限定する記載も、自動組立機械を除外する旨の記載もなく、さらに除外しなければならない根拠もないと認められるので、周知例には、数値制御装置全般についての技術が開示されていると認めるのが相当である。また、周知例には、選択されたヘツドの取付位置の座標値を対象とすることは開示されていないが、本願発明のヘツド位置指令の機能は周知例記載の技術事項に対応するものであることは前記認定のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

したがつて、「数値制御において、工具のオフセツト量、すなわち工具の最終的な位置決めの補正量をあらかじめ手動ダイヤルに設定しておき、そのダイヤル番号をT機能で指定する技術手段を考慮すると、数値制御において、使用する実際値に対応する工具の番号などを変数として用いて該番号に対応した実際値を呼び出すことは慣用手段にすぎないものと認められる」とした審決の認定判断に誤りはない。

(二) 相違点イについて

前記4(一)認定の周知例の記載事項によれば、周知例でいう工具オフセツト量とは工具の最終的な位置決めの補正量のことであり、工具の摩耗による寸法のずれや工具の取付精度による寸法ずれ等の取付誤差を補正するためのものであり、あらかじめ手動ダイヤルに設定するとは一種の記憶手段にプリセツト(あらかじめ設定)することを意味すると理解され、これらの補正が工具毎、数値制御装置毎に行われるであろうことは、当業者にとつて自明な事項ということができ、本願発明の対象とする数値制御の一つである多軸ヘツド加工機においても例外でない。

したがつて、本願発明と引用例記載の発明との相違点イに関する実質的な構成上の差異は、本願発明の数値データがヘツド位置座標値であるのに、引用例記載の発明のそれが加工形状がほぼ同じで一部の寸法が異なるような加工工程毎の加工量であるという変数の内容に尽き、そして、右数値データの内容の差異に格別な技術的意義を見いだせないから、相違点イは、結局のところ設定する変数の内容に応じ適宜変更し得る設計的事項というべきである。

したがつて、「前記周知技術によれば、工具オフセツトは工具ごとにセツトされると解されるから、相違点イは設定する変数の内容に応じて適宜変更し得る単なる設計的事項と認められる。」とした審決の認定、判断に誤りはない。

(三) 相違点ウについて

工具における各オフセツト量を補正するため工具又はテーブルのいずれを移動させる場合でも、その移動距離の演算は、出発点の座標と目的点の座標と、その誤差からなされるものであることは、技術上自明である。

ところで、前掲乙第一号証によれば、テーブルを移動させる方式である本願発明の演算について、本願明細書には、「例えば、座標T0にあるヘツドH0による加工の時は、メモリー13-0の記憶座標(X0、Y0)が呼び出される。この座標値は演算システム16に送られ、ここで加工位置座標値メモリー9から呼び出された加工位置座標値と加減算され所要のテーブル移動データ17が得られる。」(本願公報第四欄第二七行ないし第三三行)と記載されていることが認められるが、これは工具を移動させる方式である周知例記載の技術における「工具の最終的な位置決めの補正量をあらかじめ手動ダイヤルに設定しておき、そのダイヤル番号をT機能で指定して、設定量をNC装置の出力値に加えて―原点をずらして―工具を正しい位置に持つてゆく」と同様な処理を実行しているというべきである。けだし、周知例記載の技術において、「最終的な位置決めの補正量をあらかじめ手動ダイヤルに設定」することは、前記認定のように一種の記憶手段にプリセツト(あらかじめ設定)することを意味し、それは本願発明におけるメモリ13の記憶座標に対応し、また「そのダイヤル番号をT機能で指定して、設定量をNC装置の出力値に加えて―原点をずらして―工具を正しい位置に持つてゆく」は、本願発明の「メモリー13-0の記憶座標(X0、Y0)が呼び出される。この座標値は演算システム16に送られ、(中略)加工位置座標値と加減算され」に対応するからである。

また、本願発明において、ヘツド位置座標値と加工位置座標値は、それぞれ加工機本体と被加工物(プリント基板)に対して位置出しが行われるから、該二個のデータは異なる座標原点を有することになるが、二つの座標で表現された二点間の距離、すなわち移動量を演算するに際し、一方の座標で表現されたデータを他方の座標で表現する、すなわち座標交換を行うことは普通に採用される手段にすぎない(そのような数学的手段が知られていることは原告も争つていない。)。

したがつて、「本願発明がテーブル移動量を演算することは前記周知技術の「工具のオフセツト量をNC装置の出力値に加えて―原点をずらして―工具を正しい位置にもつていく」という数値制御における周知の一連の処理を単に実行しているにすぎない」との審決の認定、判断及び「二つの座標値間の距離を算出するにあたり、座標値の原点を一方の座標値に設定することは実距離を算出する演算における自明の事項」であり、相違点ウに係る構成は単なる設計的事項であるとした審決の認定、判断に誤りはない。

(四) 相違点エについて

成立に争いのない乙第二号証によれば、昭和五三年特許出願公開第三七三八一号公報には、電子機器のプリント基板へIC素子その他の電子部品を取り付ける組立加工のように多種の電子部品の組立加工を各々多数個所に対して行うNC加工機において、電子部品の数に対応して多数の加工ヘツドを有し、プリント基板の部品取付位置を対応する加工ヘツドの真下に移動させるよう移動制御する装置が開示されていることが認められ、その技術内容及び右公報の頒布日が本件出願の二年半以上前であることを考慮すれば、本件出願前多軸ヘツドを有する数値制御加工機は周知であつたというべきであり、原告主張のように一件の公開公報であるからといつて、その周知性を否定する合理的根拠はない。

このように、多軸ヘツド加工機自体は周知技術であり、前掲甲第四号証を検討しても引用例記載の発明の数値制御装置において、その数値制御の対象を多軸ヘツドとすることに格別の阻害要件の存在が認められないことからすれば、これを本願発明のように多軸ヘツド加工機に限定した点は単なる用途限定にすぎず、本願発明と引用例記載の発明との間には相違点エに係る構成において実質的な差異はない。

したがつて、相違点エの判断において、審決が「本願発明が対象とする数値制御加工機が一軸であつてはならない理由はなく、一軸でも成立する」とした点は、本願発明が一軸ヘツド加工機を対象としたものでないことからすれば、措辞妥当とはいえないが、「多軸ヘツドを有する数値制御加工機が従来周知である」、「引用例記載の発明の数値制御の対象を多軸ヘツドとすることに格別な阻害要因が存するとはいえない」と認定したことに誤りはなく、このことを理由に相違点エは周知の用途を特定した用途の限定にすぎないとした審決の判断に誤りはない。

5 以上のとおりであつて、審決には、本願発明と引用例記載の発明との一致点の認定、及び相違点の判断に誤りはなく、本願発明は引用例記載の発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものというべきであるから、審決に原告主張の違法は存しない。

二 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

テーブル移動指令データとしての被加工物上の加工位置座標値及びヘツド位置指令を夫々記憶する加工位置座標値メモリー及びヘツド位置指令メモリーと、ヘツド位置座標値を加工機固有のデータとしてプリセツトするヘツド位置座標値メモリーと、前記ヘツド位置指令メモリーの出力信号によりヘツド位置座標値を呼び出す選択装置と、その呼び出されたヘツド位置座標値を前記加工位置座標値の原点として演算しテーブルの移動データとして出力する演算システムとよりなる多軸ヘツド加工機におけるテーブル移動制御方式。(別紙図面一参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

<省略>

<省略>

別紙図面二

<省略>

<省略>

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